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レン

頭上では蛍光灯がジジと音を立て、店内にはスープの香りが充満していた。ここに長く居れば居るほど、心が安らいでいくのを感じた。赤と金の色使い、蓮の花、そしてこの小さな店を埋め尽くす鳳凰の装飾。なぜかこの場所が、三つの巨大組織にとっての中立地帯とされているのも、妙に納得がいった。

それ以上に、ここには家庭的な温かさがあった。「本物のレン」が今まで一度も感じたことのないような、心許せる空気が漂っていたのだ。

ここで働いて得た金があれば、少なくとも自分の食い扶持くらいは稼げるだろう。胃が痙攣していることから察するに、彼女が最後にまともな食事をしてから随分と時間が経っているようだ。シフトが終わ...

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