第55章 意外のヒーロー

人は緊張すると転んでしまうものだが、目の前のこの女もそうだった。

「余計な真似してんじゃねえぞ!」金髪の男が片手で渡辺千咲を指差し、警告した。

渡辺千咲は黒いウインドブレーカーを身にまとい、マスクと帽子も着けている。

終末世界から戻ったばかりで、まだ着替える暇もなかったのだ。

「助けて……」美しい少女が懇願する。華奢なキャミソールからは、春光がちらりと覗いていた。

それが金髪の男をさらに興奮させた。

「もう通報しました。警察はすぐに来ます」渡辺千咲は冷たい声で言った。

ゾンビにさえ遭遇したのだ。この程度の脅しや喧嘩の場面は、意外にもそれほど怖くはなかった。

「クソッ! このア...

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