第一章

重厚なカーテンの隙間から差し込む朝一番の光が、空見灯の瞼を鋭く刺した。

二日酔いの頭痛が炸裂しそうだ。見知らぬ天井、そして空気中に漂う冷ややかな男性用香水の香り――それらすべてが、彼女にとって絶望的な事実を告げていた。

昨夜、彼女は暴走してしまったのだ。

二年愛した男、篠原流輝と名家令嬢との婚約パーティーで、彼女は泥酔し、あろうことか適当な男を捕まえて……。

空見灯は息を潜め、恐る恐る掛け布団の端をめくった。

隣にいる男はまだ深く眠っている。彫りの深い横顔、眉間に刻まれた皺。眠りの中にありながらも、人を寄せ付けない威圧感を放っていた。

男が熟睡している隙に逃げ出そうと、冷たい床に足を下ろした瞬間だった。手首を、燃えるように熱い大きな手が乱暴に掴んだ。

振りほどくことなど不可能なほどの力だった。

空見灯の心臓が早鐘を打つ。彼女はその場で凍りつき、振り返る勇気が出ない。

背後から、低く磁性のある声が響いた。寝起き特有の掠れを含んでいるが、一言一句が明瞭だった。

「俺を抱いておいて、逃げる気か?」

空見灯の顔が瞬時に真っ赤に染まる。

彼女は必死に平静を装った。

「あの、昨夜のことは事故です。私たち、お互い大人ですし……これ以上あなたに付きまとうつもりはありません」

「事故?」男の声が低く唸る。「ほう?」

「ええ、事故です。私、飲みすぎて何も覚えてなくて。大人同士なんですから、そんなに根に持たないでください」

そう言いながらも、彼女の脳裏には昨夜の記憶がフラッシュバックしていた。死に物狂いでこの男に絡みつき、「寝てよ」と迫ったあの光景が。自分にこれほど開放的な一面があったなんて、想像すらしたくなかった!

恥ずかしくて死にそうだ!

きっと第二人格が出てきたんだ。彼女は心の中でそう自分を慰めた。

本当は彼女だって泣きたいくらいだ。初めての夜が、こんなわけのわからない形で失われてしまったのだから!

空見灯は深呼吸を繰り返し、できるだけ軽快な口調を心がけた。

言い終えると、彼女は再び掴まれた手首を振りほどこうとした。

「俺が根に持つと言ったら?」男はさらに力を込めた。

「あなただって得をしたでしょう? 責任を取れなんて言わないだけ、私は寛大だと思いませんか?」

痛みに耐えかね、空見灯は無理やり振り向かされた。

その顔を見た瞬間、彼女の全身の血液が凍りついた。

まさか――桐谷憂。

桐谷グループの最高権力者であり、S市の経済界を牛耳る男。

冷酷非道、女色に溺れず、数多の名家令嬢たちが競って近づこうとしても、その衣の裾にさえ触れられない絶対的な権力者。

さらに致命的なのは、桐谷家と篠原家が長年の商売敵であることだ。

篠原流輝がこの名前を憎々しげに口にするのを、一度ならず聞いたことがあった。

空見灯の頭は完全にパニックに陥った。元彼の宿敵と寝た? 荒唐無稽にも程がある!

桐谷憂はすでに上半身を起こしていた。シルクの布団が滑り落ち、鍛え上げられた胸板と腕が露わになる。

その冷ややかな白い肌には、昨夜の狂乱を無言で物語るような生々しい爪痕が数本、赤く残っていた。

彼の視線が、恐怖に引きつった彼女の顔に注がれる。薄い唇が開き、温度のない淡々とした声が放たれた。

「お前が、篠原流輝に捨てられた『高嶺の花』か?」

その言葉は平手打ちのように空見灯の頬を打ち、羞恥と屈辱が瞬く間に彼女を飲み込んだ。

彼女は下唇を噛み締め、爪が掌に食い込むほど拳を握ったが、一言も言い返せなかった。

桐谷憂は数秒間彼女を品定めすると、立ち上がって服を着始めた。だが、自分の手首に視線を落とした瞬間、眉をわずかに顰めた。

彼は腕を上げ、何もついていないシャツの袖口を空見灯に見せた。

「このカフスボタンは特注品だ。世界にこれ一つしかない」彼はゆっくりと言った。「もう片方はどこだ?」

空見灯の頭の中で何かが爆発したような音がした。

視線を落とすと、確かに男のシャツの右袖口にあるはずの、高価なダイヤモンドのカフスボタンが消えていた。

「わ、わかりません……」空見灯は慌ててベッドや床を探したが、散乱した衣服以外、何も見当たらない。

「見つからない?」桐谷憂の声からは喜怒哀楽が読み取れないが、部屋の気圧が一気に下がったように感じられた。「なら、弁償しろ」

空見灯は反射的に尋ねた。「いくらですか?」

今はただ金で解決して、一刻も早くこの男の前から消え失せたかった。

桐谷憂は鼻で笑った。その笑いには嘲りが満ちていた。

「空見さん、俺が金に困っているように見えるか?」

空見灯の心は底まで沈んだ。

「探せ。あるいは――」桐谷憂は身を乗り出し、熱い吐息を彼女の耳元に吹きかけた。致命的な危険を孕んだ声で囁く。「お前の体で払え」

その言葉を残し、彼はシャツを脱ぎ捨てて浴室へと消えた。

空見灯はその隙に床の皺くちゃになったドレスを掴み、人生最速のスピードで身につけた。背中のファスナーを上げる余裕さえなく、無様な姿でホテルから逃げ出した。

一人きりの賃貸アパートに戻ると、空見灯は力が抜けたように床へ座り込んだ。

スマホが狂ったように振動し、親友の唐沢雪優の名前が画面で踊り続けている。

通話ボタンを押した瞬間、唐沢雪優の怒号が飛び込んできた。

「空見灯、あんた正気!? 本当にあのクソカップルの婚約パーティーに行ったの? 家で待ってろって言ったじゃない! 昨夜のうちに乗り込んで会場をぶっ壊してやればよかった!」

冷たいスマホを握りしめ、空見灯の涙がついに決壊した。

篠原流輝との五年。学生時代から社会人になるまで、何も持たなかった彼が成功するまで支え続けた。

結婚するものだと信じていた。だが彼は、二十年の努力をショートカットできる財閥令嬢へと乗り換えたのだ。

別れ際、篠原流輝は言った。「灯、ごめん。俺は疲れたんだ。もう頑張りたくない」

二年の感情を、彼は「疲れた」の一言で片付けた。

疲れたと言うなら、空見灯だって同じだ。ただ、愛の深さが違っただけ。

自分で選んだ男だ。相手が人だろうが鬼だろうが、認めるしかなかった。

秋の雨がしとしとと窓を叩き、街全体が冷たく湿っている。

「雪優、大丈夫だから。安心して」

彼女は電話を切り、疲れ切った体で壁にもたれた。もう一言も話したくなかった。

月曜日、空見灯はやつれた顔で会社「星芒メディア」に出社した。

エレベーターに乗るなり、同部署の噂好きが寄ってきた。

「聞いた? うちの会社、買収されるらしいよ! 噂じゃ桐谷グループだって!」

空見灯の足が止まった。

桐谷グループ? 桐谷憂?

そんな偶然があるだろうか?

一日中、空見灯は心ここにあらずだった。桐谷憂の冷酷な顔と、「体で払え」という言葉が脳裏から離れない。

夕方、唐沢雪優が派手な赤いスポーツカーで迎えに来た。

二人は行きつけの火鍋屋に入った。麻辣の刺激が、一時的に空見灯の神経を麻痺させてくれる。

「買収なんてどうでもいいじゃん! 桐谷グループは大手だし待遇も今より良くなるよ。環境を変えて、篠原流輝なんてクズ男は完全に忘れちゃいな!」唐沢雪優は義憤に駆られて言った。

空見灯は苦笑した。彼女が怖いのは買収ではなく、桐谷憂だ。

その時、スマホの画面が光った。

知らない番号からのショートメッセージ。短い一文に、空見灯の呼吸が止まった。

【俺のカフスボタンは見つかったか?】

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