第十二章

桐谷憂は骨を折って空見灯をフォルクスワーゲンの後部座席に押し込み、ようやく運転席に収まった。

空見灯の酒癖は悪くない。泥酔しても暴言を吐いたり、泣き叫んだりすることはなかった。

彼女は座席から身を起こし、背筋を伸ばした。

「ガーデンハイツB棟、二号棟までお願いします。ありがとう」

「俺をタクシーの運転手扱いか? いい度胸だな」

桐谷憂は凶悪な面持ちで振り返ったが、彼女の瞳は焦点を結んでおらず、虚ろだった。

彼女はこちらを見ているようで、何も映していないようにも見えた。

「空見灯、俺が誰かよく見ろ」

桐谷憂が身を乗り出すと、ふわりと彼女の香りが漂ってきた。彼は慌てて座り直し、喉...

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