第53章

空見灯は傍らに佇みながら、目の前の男が何者なのか必死に記憶を辿っていた。

かつて篠原流輝と共に多くのイベントや社交場に顔を出していた彼女は、業界の人間にはそれなりに明るい。

だが、この男は桐谷大正を「お祖父様」と呼んだ。ならば、桐谷家の血縁者であることは間違いない。

桐谷憂と出会うまで、空見灯は桐谷家の人間とは縁もゆかりもなかった。だが、向こうはこちらを知っているらしい。

「空見灯? どうしてここに?」

聞き覚えのある声に空見灯が振り返ると、そこには大学時代の同級生、神崎椿の姿があった。

クラスこそ違ったが、同じ音楽学部出身だ。

ここ数年、空見灯が篠原流輝のために奔走する中で、...

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