第五十五章

空見灯は訝しげな視線を神崎椿に向けた。なぜ、私にピアノを弾かせようとするのだろうか。

だが、神崎椿の目は空見灯を見てはいなかった。その視線は、意味ありげに桐谷憂へと注がれている。

空見灯の脳裏に、ある四文字熟語が浮かんだ――「紅顔の禍水」。

桐谷憂は、まさしく災いを招く魔性の男だ。これほど冷酷非道な男だというのに、なぜこうも多くの女が群がり、媚びを売ろうとするのか。

もっとも、自分もかつては彼の体に目が眩み、その結果として桐谷憂と一夜を共にしてしまったのだから、人のことは言えないのだが。空見灯は心の中で小さく溜息をついた。

傍らで、桐谷光希が驚いたように空見灯を見た。

「へえ、義...

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