第九章

桐谷憂は、これまでの人生で一度も袖を通したことのないような安物を、極めて不本意ながら身に着けた。

着た瞬間、総毛立つような悪寒が走る。

空見灯は彼が脱ぎ捨てた服を几帳面に畳み、あの薄汚れたビニール袋に入れると、そのままトランクへ放り込んだ。

すべてを終えると、彼女は車に戻りシートベルトを締めた。

「桐谷社長、行けますよ」

車自体にも不満しかなかったが、今の桐谷憂にとっては足元の靴の不快感がそれ以上だった。

彼は渋々エンジンをかけ、道中ずっと不機嫌さを隠そうともしなかった。

そんな彼の様子を見て、空見灯は諦めたように溜息をついた。

「桐谷社長、申し訳ありません。慣れないですよね...

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