第6章

 合宿四日目。

 古崎言舟は古崎グループというスポンサーの立場を笠に着て、警備員の制止を振り切り強引に押し入ってきた。

 その時、矢原賢一は私の太もものテーピングを調整しているところだった。

「ここの締め付けがきつい」

 彼は頭を下げ、男女の距離感など微塵も感じさせない様子だった。

「これじゃスクワットの時に血流が悪くなる。世界選手権では、〇・一秒が金と銀の差になるんだ」

 私が口を開こうとした瞬間、入り口の方から轟音が響いた。

「宇原雫! やっぱりこいつと一緒か!」

 吐き気を催すほど聞き慣れた声だ。

 私は振り返りもしなかった。ただ呼吸を整えることに集中する。矢原賢一の...

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