第2章

絵里

翌朝、教室のドアを押し開けた瞬間、世界が血の色に染まった。

私の机の上で、真っ赤なペンキが血のように滴り、歪んだ文字を描き出していた。『化け物』そして『死ね』と。

「嘘……」私は息を呑み、手からリュックが滑り落ちた。

朝日が窓から差し込み、その文字を照らし出して、目に焼き付くような、息の詰まるような赤色に輝かせている。教室にいる生徒たちは皆、何事もなかったかのように普通におしゃべりをしている。

「誰が……誰がこんなことを?」私の声は震えていた。

誰も答えない。私の方を見ようとする者すらいなかった。

田中先生が教室に入ってきて、私の机を一瞥すると、眉をひそめた。

「個人的な問題は自分で解決しなさい。授業の邪魔をしないように」

「でも、机に誰かが……」

「それはあなたが対処すべき個人的な問題です」切り捨てるように冷たい言葉だった。

震える手で、鞄からウェットティッシュを取り出し、赤い文字をこすり始めた。ペンキはまだ完全に乾いておらず、本物の血みたいに、ねっとりと指にまとわりついた。

その時、沙耶香が優雅な足取りで私のそばを通り過ぎた。彼女は身をかがめ、私の耳元で囁いた。

「赤って、あんたによく似合うね」吐き気がするほど甘ったるい声だった。「血の色みたいで」

私の手は震え、ウェットティッシュが床に落ちた。


二時間後、体育の授業を知らせるチャイムが鳴った。女子更衣室がざわめく中、私は隅の方へ向かい、静かに体操着に着替え始めた。

「うわ、見てよ、ガリガリじゃん」沙耶香が私の前に立ち、更衣室中の女子に聞こえるような大声で言った。「マジ、みっともないよね」

着替えの最中だった私は、その言葉を聞いて凍りついた。

「あばら骨、数えられそう」と、別の女子が同調する。

「もしかして、家でちゃんとご飯食べさせてもらってないんじゃない?」

「まあ、奨学生だしね」

更衣室に笑い声が響き渡る。その一つ一つが、針で肌を刺されるようだった。

私は急いで体操着を身につけ、この地獄から逃げ出そうと必死だった。

だが、もっと大きな災難が私を待ち受けていた。

体育の後、私は歴史の授業へと急いだ。和也が友達と喋っていたが、私が入ってくるのを見ると、彼らは和也をけしかけ始めた。

「和也、あいつにぶつかってこいよ!」

「そうそう、『事故』に見せかけてさ!」

「あいつガリガリだから、ちょっと押しただけで倒れるって!」

和也の目に一瞬ためらいがよぎったが、友達に促され、彼は立ち上がった。

私は自分の席に向かうことに集中していて、彼が近づいてくるのに全く気づかなかった。

ドンッ!

和也の肩が、私の肩に強くぶつかった。その衝撃で、私は完全にバランスを崩し、真横に吹き飛ばされた。

頭を、机の鋭い角に激しく打ち付けた。

頭蓋骨を貫くような灼熱の痛みが走り、こめかみから何か温かいものが伝うのを感じた。それに触れると手は血まみれになっていた。

「おっと、ごめん」和也は私の頭の血を見て、一瞬パニックに陥ったような目つきをしたが、すぐにそれを隠した。「そこにいるなんて、見えなかった」

教室は水を打ったように静まり返った。誰もが私を見ていたが、助けようと前に出てくる者は一人もいなかった。

私は震える手で傷口を押さえた。指の間から血が滲み出してくる。和也は何事もなかったかのように背を向けて歩き去った。

一人で床に座り込み、タイルに血の滴が落ちるのを眺めていた。世界中がぐるぐると回っているような気がした。


昼休みを告げるチャイムが鳴ったばかりの頃、私は頭の傷の手当てができる静かな場所を探して、校庭に向かって歩いていた。ちょうど腰を下ろした時、聞き覚えのある声がした。

「母親、会いたいよぉ……」

顔を上げると、梨乃、私のたった一人の友達が中庭の真ん中に立って、大げさに泣き真似をしながら、私の真似をしていた。

「見て見て! 私は孤児の絵里!」彼女は本を抱きしめ、それが写真であるかのように見せかけている。「母親、とっても会いたいよぉ!」

見物人の群れから、雷鳴のような笑い声が湧き上がった。

「やばい、梨乃、そっくり!」

「いつもあんな感じだよね! ママの写真抱きしめて泣いてるの!」

「『孤児の絵里』ごっこ、やろうぜ!」

突然、十数人の生徒が私の真似を始めた。手当たり次第のものを抱きしめ、嘘泣きをしている。

「母親、どうして私を置いていったの!」

「私、とっても寂しいの!」

「誰も私のこと愛してくれない!」

一つ一つのモノマネが、心臓を抉るナイフのようだった。梨乃は私の最後の友達で、唯一の支えだったのに、今や彼女までもが……。

私は顔を覆い、全力で走り出した。一番近くのトイレに飛び込む。

トイレのドアを押し開け、鏡の前に駆け寄った。顔に水をかけて、落ち着きたかった。

しかし、鏡には一枚の紙がテープで貼られていた。母の死亡記事だった。

その上には、赤いインクでこう書かれていた。『娘も後を追うべきだ』と。

足の力が抜け、冷たいタイルの床に崩れ落ちた。

誰もいないトイレで、自分を抱きしめながら、静かに嗚咽した。涙が頬を伝って流れ落ちていく。


夜になり、黒井邸のダイニングルームでは燭台の光が揺らめいていた。奈央は私に一瞥もくれず、優雅にステーキを切り分けた。

「今日から、あなたのお小遣いはなしにします」

「え?」私は耳を疑い、顔を上げた。

「聞こえたでしょう」その口調は、まるで天気の話題でもするかのように気軽だった。「レッスンだと思いなさい。お金を使わなければ、今あるものに感謝することを学ぶかもしれませんね」

「でも、ご飯を買わないと……それに、他にも……」

「沙耶香があなたの最低限の必要を満たしてくれます」奈央はついに私を見た。その眼差しは氷のように冷たい。「あなたが、お行儀よくしていればね」

沙耶香が甘く微笑んだ。

「絵里、私が『面倒を見てあげる』わ」

彼女の言う「面倒を見る」がどういう意味か、私には痛いほどわかっていた。

お金がないということは、もう学校で昼食を買うことさえできないということ。私を敵視するこの家族に、完全に依存しなければならないということ。

それは、私にはもう本当に、どこにも頼る場所がないということを意味していた。


一時間後、私は空腹のまま、リュックを取りに誰もいない学校へ戻った。廊下には私の足音だけが響いていた。

帰ろうとしたちょうどその時、和也が誰かを待っているかのように、階段のそばに立っているのが見えた。

彼は私を見ると、複雑な感情を目に浮かべた。何か言いたそうに口を開いたが、結局何も言わずに立ち去った。

私は誰もいない廊下に一人で立ち、ポケットから母の写真を取り出した。

「ごめんね」がらんとした空間で、私の声はひときわ寂しく響いた。「もう、本当に、耐えられないよ」

母の最期の言葉を思い出す。「強く、生き続けて」

でも、今の私には、強くいるための力はもう残っていなかった。

屋上へ続く階段へと、ゆっくりと歩き出した。一歩一歩が、雲の上を歩いているかのように重い。

殺害予告、暴力、友達からの裏切り、経済的な断絶……すべてが私を、あの最後の場所へと押しやっていた。

屋上のドアへと続く最後の一段に立った。ポケットの中で、携帯電話が絶え間なく震えている。

だが、もう誰が私に連絡しようとしているのか、どうでもよかった。

開け放たれた屋上のドアから、夜の冷気をはらんだ風が吹き抜ける。

私は目を閉じ、一歩前に踏み出した。

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