第5章

絵里

午前一時十分。家は静まり返っていた。

心臓が肋骨を叩くのを感じながら、私は慎重に奈央の書斎のドアを押し開けた。イヤホンから、謎の人物の声が聞こえてくる。「いいか、財務システムのパスワードは彼女の誕生日とお父さんの命日を組み合わせたものだ」

「危険すぎる……」私の手は震えていた。

「真実には、常にリスクを冒す価値がある」

パスワードを入力すると、コンピューターの画面が明るくなった。システムインターフェースが表示された瞬間、私の血は凍りついた。

黒木教育慈善基金、送金記録734,696,480円

受取人口座:黒木奈央技術投資株式会社

送金日:二〇二二年九月二日

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