第3章
「七年よ、凜。そろそろ、気持ちの整理をつけたらどう?」
母は私の部屋の入り口に立ち、段ボール箱を抱えながら、私が整理しているSTARDUSTのグッズを複雑な眼差しで見つめていた。
私はこくりと頷き、母の言葉が聞こえたことを示したが、指は無意識のうちにCDジャケットを撫でていた。
平世圭の笑顔がそこに印刷されている。永遠に若く、永遠に温かい。
母は段ボール箱を置くと、私の隣に腰を下ろした。彼女もSTARDUSTのファンで、私が高校生の頃、平世圭に会ったことがある。
だから母はずっと知っていた。私がただの追っかけファンではないことを。
ただ純粋に、平世圭という人間が好きだということを。
「あの中崎さん、とても綺麗ね。最近の雑誌は二人のツーショットばかり……」
母が婉曲にその話題に触れると、私はただ淡く微笑んだ。
そう、中崎立希。
彼女は平世圭と私と同じ星奏高校で、平世圭の一学年下だった。
スマホを開くと、千崎初華からメッセージが届いていた。ファンクラブのメンバーが、中崎立希の高校時代の音楽祭の写真を掘り出したらしい。
写真の中、彼女はステージ中央で司会を務め、平世圭はピアノの前に座り、真剣な面持ちをしていた。
光が二人に降り注ぎ、この上なく調和がとれている。
認めざるを得なかった。二人が並んで立つ姿は、確かにお似合いだった。
「星奏高校、最近また平世圭のことで話題になってるわよ」
母が小声で言う。
「創立五十周年の記念式典を準備していて、歴代の優秀な卒業生に招待状を送っているそうよ」
私の心臓が、不意に速く脈打った。
私も行く。
平世圭も、そこへ帰ってくるから。
そして、この機会に、彼に借りているものをすべて返さなければならない。
「そうだ、これを」
母は引き出しから古い通帳を取り出して私に渡した。
「あなたがずっと貯めていたお金、もう十分でしょう?」
通帳を受け取り、そっと開く。そこに記された額は、かつて平世圭が私のために補聴器を買ってくれた金額とちょうど同じだった。
七年間、少しずつ貯めてきたのは、いつかこの「借金」を返済するため。
七年越しの願いが、ようやく果たされる。
そして、ようやく平世圭に会える……。
◇
記念式典当日、星奏高校の前は黒山の人だかりだった。校門の外には報道陣が詰めかけ、警備員が厳戒態勢を敷いている。
入り口に立っていた私は、招待状の確認で足止めされた。
私の招待状はまだ届いておらず、間に合わなかったのだ。
「申し訳ありませんが、正式な招待状がなければ入れません」
警備員は冷たく言った。
「ここの卒業生です。これが卒業証明書です」
私は慌てて説明し、身分証を取り出した。
警備員は私の身分証に一瞥をくれると、私の補聴器に気づき、侮蔑的な態度になった。
突然、彼の目がぱっと輝いた。中に入れてくれるのかと思った矢先、私は脇へと突き飛ばされた。
鋭い痛みが走ったが、反応する間もなく、入り口がにわかに騒がしくなる。
中崎立希がマネージャーとボディガードに囲まれて優雅に姿を現した。彼女は招待状を見せるまでもなく、警備員たちが即座に恭しく道を開ける。
私のそばを通り過ぎる時、彼女は足を止め、その視線が私の補聴器に留まった。
「ここは星奏高校の記念式典よ。特殊教育学校のチャリティーイベントじゃないの」
立希は作り笑いを浮かべ、甘ったるいが棘のある声で言った。
警備員が同調して笑う。
「そうですよ、お嬢さん。早くお帰りなさい。いくら門の前で待ったって、あんたを入れるわけにはいかないんでね」
私は俯き、頬が熱くなるのを感じた。
子供の頃から様々な偏見を受けてきたけれど、今回ほど惨めなことはなかった。どう反論すればいいのかさえ分からない。
その時、一台のマットブラックのワゴン車がゆっくりと校門の前に停まった。
窓が下ろされ、平世圭の横顔が見える。
私は慌てて顔を伏せて避けようとしたが、もう遅かった。
平世圭との再会が、こんなにも気まずい場面になるなんて、考えたこともなかった。
俯いて知らないふりをしようとした。
だが、間に合わなかった。
聞き慣れた声に、私はその場で凍りつく。ゆっくりと顔を上げると、平世圭が私を見て、口角を微かに上げていた。
「久しぶりだね、白川さん」
眩い光の中、私が見た平世圭の眼差しは、七年前と変わらず優しかった。








