第4章
「白川さん、今何時?」
高校時代を思い出すたび、いつもこの問いかけが耳の奥で蘇る。
平世圭は決まって昼寝から目覚めた後、こちらに顔を向け、眠たげな瞳で私を見つめ、そっと時間を尋ねてくるのだ。
「聾」や「唖」と呼ばれた記憶はほとんどない。そんな耳障りな呼び名は、とうに時間に洗い流されて曖昧模糊としている。だが、平世圭が私を「白川さん」と呼ぶ声だけは、今も昨日のことのように鮮明だ。
彼は口数の少ない男だったが、それでいて絶大な人気があった。
彼が椅子の背にもたれ、ギターピックを回しながらふっと笑うだけで、教室中の女子が蜂のように群がってくる。
一方、安物の補聴器をつけた私は...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章


縮小

拡大