第5章
創立記念祭が終わり、私は誰もいない星奏高校の廊下に立っていた。手には、通帳の入ったショルダーバッグを固く握りしめている。
それはまるで灼熱の温度を帯びているかのように、一刻も早く持ち主に返したいという衝動に私を駆り立てた。
記憶の中の道順を辿り、私は三年生の校舎の突き当たりへとやって来た。そこはかつて音楽部のピアノ室だったが、今はもう使われていない。
そっとドアを開けると、教室は埃っぽく、隅に置かれた古いピアノには白い布がかけられていた。
まるで、あの真夏の午後が蘇ってくるかのようだ。
平世圭がピアノの前に座り、窓から差し込む陽光が彼の横顔を照らしていた。その長い指が鍵...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章


縮小

拡大