第10章:存在してはならない疑い

上田景川の目に一瞬、鋭い光が走った。「ない」

月野里奈の無意識の仕草が、月島里奈とあまりにも似ている。

男は眉をひそめ、月野里奈の栗色の髪に目をやった。ちょうどその時、白くて細い手が軽く持ち上がり、指先で垂れた髪を耳の後ろにかけ、さらに髪の先を肩の後ろに流す。その動作は見覚えがあるが、見知らぬ顔がそれをすることで、上田景川の心に言いようのない苛立ちが生じた。

彼の心には無数の荒唐無稽な考えが浮かんだ。その中で最もあり得ないのは、月野里奈と月島里奈が同一人物であるということだった。

最初にその考えが浮かんだ時、彼は即座に否定したが、それでもその期待を捨てきれなかった。

さもなければ、...

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