番外編2
盤上の駒だと思っていた。
だがいつの間にか、私は駒を動かすプレイヤーになっていた。
東京の都心に、こんな場所があったのかと息を呑むような、静謐な屋敷の庭。夏の微風をはらみ、軒下の風鈴が、ちりん、と涼やかな音を立てるのを、私はただぼんやりと眺めていた。
この庭の主が、上等な玉露を、私のためだけに淹れてくれている。
「ようやく、こうして正式にお会いできましたね、吉川さん」
男は微笑みながら、青磁の湯呑みを私の前へと差し出した。
「それとも、『嵐風』と、お呼びすべきでしょうか」
渡辺直哉、四十七歳。日本の金融界に、その名を轟かせる伝説の男。
彼の資産は、太平洋の島国一...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章

11. 第11章

12. 番外編1

13. 番外編2


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