第80章 針孔

佐久本令朝は怒るでもなく、ふと笑みを漏らした。目尻がわずかに弧を描く。

彼女は息を弾ませながら言った。「長谷川隊長、まだ怒ってますか」

長谷川寂は完全に虚を突かれた。

だが、佐久本令朝は重ねて問う。「さっきと同じくらい、まだ怒っていますか? 理性は戻りました?」

四つの目が交錯する。長谷川寂は佐久本令朝の瞳の中に、三分の狡猾さ、三分の不敵さ、そして何とも言えぬ……負けん気の強さを見て取った。

「理性が戻ったなら、ちゃんと話ができます」

佐久本令朝は痛む手首をどうにか動かし、低い声で、笑みを含んで言った。「でも、長谷川隊長。この体勢、ちょっとまずくないですか」

佐久本令朝が不意に顔...

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