第32章 罠を仕掛ける

鈴木直美は協定書に目を落とし、眉を少し上げた。

「木村さんって本当に太っ腹ですね。こんな大きな商談を、そのまま私に譲ってくれるなんて?」

鈴木直美が興味を示したのを見て、木村雪乃は内心冷ややかに笑いながらも、心遣いのある上司を演じた。「言ったでしょう、私には養わなければならない部下がたくさんいるのよ。鈴木さんみたいに気楽じゃないわ」

その言葉には鈴木直美が寝て出世したという皮肉が込められていたが、鈴木直美は気にした様子もなく、協定書をさらりとめくった。

木村雪乃の目に一瞬鋭い光が走った。「今夜、豊栄グループの美作社長が食事に招待してくれて、詳細について話し合いたいそうよ。鈴木お嬢さん...

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