第56章 買えない

傍らにいたスタッフが丁寧に品物を鈴木直美の前に置くと、彼女はそれを手に取って眺めた。パイプの底に小さな赤い点があり、やはり間違いなく本物だった。

「ありがとう」鈴木直美はスタッフに声をかけた。

彼女は傍らの二人を完全に無視していた。藤原晴子はとうとう我慢できなくなり、冷ややかに鼻を鳴らした。「鈴木直美、目は足の裏についてるの?年上を見ても礼儀すら知らないの?」

かつて彼女をどう扱ったか、まともな後輩として扱わなかったくせに、今さら年上ぶるなんて。

鈴木直美は一瞬目を光らせ、片眉を上げた。「あら、藤原奥様もいらしたの、なんて偶然」

その言葉は人を怒らせるためのものだった。

藤原晴子...

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