第4章
市立第二高校の教室に再び腰を下ろすと、死ぬことよりも息が詰まるような感覚に襲われた。
窓の外の桜をじっと見つめながら、私の思考は前世の高校時代へと舞い戻る。あの頃の私は命のない木偶人形のようだった。生まれ育った家庭に操られ、母からは援助交際の泥沼へと突き落とされそうになり、クラスメイトからは孤立させられ、いじめの標的にされた。先生たちは見て見ぬふりで、まるで私が教室に存在しない空気であるかのようだった。
極度の劣等感から私は心を閉ざし、表情のない「木偶人形」となった。
神代史人と出会うまでは。
あの日、放課後、私は数人の女子生徒にトイレで追い詰められた。
彼女たちは私の頭を便器に押し付け、古びた制服と黄ばんだ髪を嘲笑った。
このまま窒息して死ぬのだと思ったその時、トイレのドアが蹴破られ、煙草を咥えた金髪の少年がそこに立っていた。
「何やってんだ、お前ら」
彼は眉を吊り上げて尋ねた。
女子生徒たちは恐怖に手を離し、私はみっともなく床から這い上がった。濡れた髪が顔に張り付いている。
「アンタには関係ないでしょ、神代」
女子生徒の一人が強がって言った。
神代史人は歩み寄り、氷のように冷たい視線を向ける。
「失せろ」
たった一言で、女子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
私は俯いたまま彼のそばを通り過ぎようとしたが、手首を掴まれた。
「おい」
彼はハンカチを差し出した。
「顔、拭けよ」
あんな風に扱われたのは、それが初めてだった。
好き勝手に踏みつけていいモノではなく、一人の生きた人間として。
生まれ変わって再び彼と出会って初めて、あの感覚が「見つけてもらう」ということだったのだと理解した。
「またお前かよ」
聞き覚えのある声が現実に私を引き戻す。顔を上げると、神代史人が煙草を咥え、廊下の窓枠に寄りかかりながら、うんざりした顔で私を見ていた。
私は床に膝をつき、踏みつけられて汚れた教科書を静かに拾い集める。今日の放課後、私は数人の女子生徒に空き教室で追い詰められ、鞄を地面に投げつけられ、教科書を踏みつけられたのだ。
「疫病神付きの木偶人形だな」
神代史人は首を振り、彼の背後では女子生徒たちが数歩後ずさった。
「お前を見かける時は、いっつもいじめられてんな」
私は答えず、本を拾い続けた。今回は、前世とは状況が違う。前世の私は殴られて気を失い、目覚めた時には保健室にいて、ベッドサイドのテーブルには綺麗に拭かれた教科書が置かれていた。
けれど今回は、私は気を失っておらず、神代史人もすぐには立ち去らなかった。
彼はしゃがみ込み、散らばった教科書を拾うのを手伝ってくれる。
「神社でお守りでも買ってもらえよ」
彼はそう言うと、ニヤリと笑った。
「まあ、今回も俺的には英雄色を好むって感じだけどな」
「おい、史人」
小山という名の不良少年が口を挟んだ。
「お前が英雄なのはいいとして、こいつが色ってのは無理があんだろ」
神代史人は舌打ちした。
「黙ってろ」
小山はそれ以上何も言わなかった。
神代史人は彼を放し、再びしゃがみ込むと、私の乾ききった髪とサイズの合わない古い制服に視線を落とし、沈黙した。
彼はポケットを探り、汚れた本を拭くためのティッシュでも探しているようだったが、何も見つからなかった。
女子生徒たちがすぐさま自分のハンカチを差し出したが、彼は手を振ってそれを断る。
そして、彼は自身の高価な上着の袖で、私の教科書についた汚水を丁寧に拭き取り始めた。
前世で、私が保健室で目覚めた時に見たのは、こうして綺麗に拭かれた教科書だった。
「あなただったのね」
私は呟いた。声はほとんど聞こえないほど小さい。
「ずっと、あなただった」
神代史人は訝しげに私を見つめる。
「何だって?」
私は咄嗟に感情が昂り、彼の腕を掴んだ。
「ずっと、あなたを探していました」
