第一章
ネオンの光が明滅し、喧騒が渦巻く高級クラブ。
綾瀬茉莉は酒のボトルを抱え、乱れ狂う人混みの中を縫うように歩きながら、必死に売り込みを続けていた。
彼女は無意識に、身にまとった極端に短いスカートの裾を引っ張った。これは店側の絶対的な要求だった。
そのスカートに加え、彼女の頭にはふわふわとしたウサギの耳が付けられている。
「こんな美人が酒売りなんて、もったいない話だな!」
突然、一人のチンピラが立ち上がり、綾瀬茉莉の行く手を阻んだ。
その視線は、綾瀬茉莉の体を下から上へとねっとり舐め回す。
「一杯飲めば二百万だ」
綾瀬茉莉は振り返り、彼を見つめた。その美しい瞳は、まるで口ほどに物を言うようだった。
濃いメイク、わずかに跳ね上げられたアイライン、そしてふっくらと描かれた赤い唇。ネオンの光を背景にした彼女は、まるで妖艶な妖精のように見えた。
「本当ですか?」
チンピラは驚きのあまり目を見開き、思わず生唾を飲み込んだ。
現実の世界で、綾瀬茉莉のような美女を見たことなど一度もなかったからだ。
圧倒的な美貌の衝撃が、真正面から彼を襲う。
同じボックス席に座っていた連中が、すでに口笛を吹き始めていた。
「まさかあの綾瀬家のお嬢様が酒売りをする日が来るとはな。他人に話しても冗談だと思われるぜ」
「冬月海斗、今日はお前、とんでもない拾い物をしたな! こんな絶好のチャンス、絶対逃すなよ!」
冬月海斗は即座にポケットから銀行カードを取り出し、テーブルに叩きつけて大げさに腕を振った。
「今日お前が飲んだ分だけ、その分の金を振り込んでやる。もしかしたら今夜だけで、お前の月収分くらい稼げるかもしれねぇぞ!」
綾瀬茉莉は迷いなく頷いた。
「分かりました」
彼女は手に持っていた酒を置き、冬月海斗のテーブルの前に歩み寄った。
こういう遊び慣れたドラ息子たちが最も好むのは、刺激だ。
テーブルの上には様々な銘柄の酒が並び、その中には数種類の強いスピリタスも混ざっていた。
綾瀬茉莉はその一杯を手に取り、頭を仰け反らせて一気に飲み干した。
高濃度のアルコールが強烈な刺激を伴って喉を焼き、胃壁を刺す。綾瀬茉莉は生理的な涙が滲むのを抑えきれなかった。
吐き気を必死にこらえ、掌に爪が食い込むほど拳を握りしめると、すぐに二杯目を手に取り、再び一気に飲み干す。
彼女には、金が必要だった。
ボックス席のチンピラたちの口笛はますます大きくなり、冬月海斗の目には「手に入れた」という確信が満ちていた。
綾瀬茉莉は彼らを無視し、一気に十杯を飲み干した。
舌先を噛み、その痛みでアルコールによる目眩に対抗しながら、冬月海斗に向かって白く華奢な手を差し出す。
「二千万です。いつ決済してくれますか?」
冬月海斗はゆっくりと席から立ち上がり、千鳥足で綾瀬茉莉に近づいてきた。
「何を急いでるんだ? 俺が約束を破るとでも? ホテルに行けば、この金は必ずくれてやるよ」
そう言いながら、彼はすでに綾瀬茉莉の腰に手を回していた。
綾瀬茉莉は躊躇なくその手を払いのけ、一歩後退した。アルコールのせいで顔は赤らんでいたが、その瞳だけは冷たく澄んでいた。
「触らないで」
面子を潰された冬月海斗は、途端に逆上して怒鳴り声を上げた。
「たかが体を売る商売女の分際で! まだ自分が綾瀬家のお嬢様だとでも思ってんのか? 貞淑ぶるのもいい加減にしろ! 金が欲しいんだろ? 今すぐ俺とホテルに来い。俺を満足させたら、チップくらい弾んでやるよ」
彼はいやらしい目つきで綾瀬茉莉の体をねめ回す。
「もし来ないなら、一銭もやらねぇ」
綾瀬茉莉は胃から込み上げる焼けるような痛みに耐えていた。冬月海斗が最初から金を払う気などなく、踏み倒そうとしていることに気づいていた。
彼女は痛む胃をそっと押さえながら、冷たい声で言った。
「私は飲みました。その金は払ってもらいます!」
「こういう遊びをする人は多いけど、金を払わずに逃げようとするクズはあなたが初めてよ。あなたのその悪臭漂う本性を、世間に宣伝してあげましょうか!」
「俺の腕時計一つでお前の命が買えるってのに、よくもそんな口が利けたな!」
冬月海斗はさらに激昂し、財布から札束を掴み出すと、綾瀬茉莉の顔に思い切り投げつけた。
「金が欲しいんだろ? 犬みたいに這いつくばって拾えよ」
束になった紙幣が顔に当たる痛みは、レンガで殴られたのと変わらなかった。
綾瀬茉莉はよろめき、辛うじて体勢を立て直した。目の前には、他人の不幸を面白がる野次馬たちの顔が並んでいる。彼女は鮮やかな唇から血が滲むほど強く噛み締めた。
この人たちは皆、彼女が辱められるのを見に来ているのだ。
かつて綾瀬家が栄えていた頃、彼らは彼女の靴を持つ資格さえなかった。だが今は、落ちた虎は犬にも欺かれる……。
冬月海斗はまだ得意げに喚いている。
「どうした、さっきまで金、金と騒いでいただろ? 今すぐその金を拾えば全部お前のものだ。ただし、土下座して拾うならな」
綾瀬茉莉の鋭い爪が、掌に深く食い込んだ。
彼女は床に散らばる紙幣を見下ろした。それらが血に塗れているように見えた。
金は喉から手が出るほど必要だ。だが、幼い頃から受けた教育が、彼女に膝を折ることを許さなかった。ここに立っていても、彼女の背筋は依然として真っ直ぐ伸びていた。
冬月海斗の悪友たちが笑い声を上げる。
「綾瀬のお嬢様、もう強がるのはやめなよ。まさか綾瀬家がまだ昔のままだと思ってるわけじゃないだろ?」
「まさに因果応報だな。昔はお前らの家は俺たち冬月家を見下していたが、今じゃ俺が金で綾瀬のお嬢様を辱められるんだからな!」
綾瀬茉莉は屈辱感に耐えた。
彼女は自分の短いスカートを見つめ、ふと苦い笑みを浮かべた。ここまで落ちておいて、まだ僅かな尊厳を維持する必要があるのだろうか?
この店でバイトをすると決めたあの日から、そんなものはすべて捨て去ったはずだ。
周囲の野次が飛び交う中、綾瀬茉莉はついにゆっくりと腰を曲げ始めた。
だが、彼女が完全に屈む前に、耳元で突然、冷たく透き通った声が響いた。
「うるさい」
綾瀬茉莉は反射的に振り返った。
そこには、ライトグレーのカジュアルスーツを身にまとった霧生澪が立っていた。神が最も偏愛した芸術品のような、精巧で鋭利な顔立ち。その薄い色の瞳は極めて冷淡で、まるでこの世の万物など眼中にないかのようだった。
彼の全身からは、人を寄せ付けない冷徹なオーラが漂っていた。
秘書が即座に歩み寄り、店内の客払いを手配し始めた。
マネージャーは腰を低くして媚びへつらう。
「申し訳ございません、霧生社長の静寂を妨げてしまいまして。すぐに部外者を追い出します」
彼は振り返り、冬月海斗たちを睨みつけた。
「お前ら、さっさと失せろ!」
冬月海斗は怒りを飲み込んだ。たとえ熊の心臓や豹の胆を食ったとしても、霧生澪を敵に回す度胸などない。彼は悔しそうに背を向け、立ち去るしかなかった。
綾瀬茉莉の横を通り過ぎる際、捨て台詞を吐くことも忘れなかった。
「今日は運が良かったな。次は覚えてろよ」
綾瀬茉莉は視線を落とした。
羞恥心で顔を上げられない。
他人にどう扱われようと、どう辱められようと構わなかった。もう慣れていた。だが、霧生澪の前でだけは、平気でいることなどできなかった。
マネージャーは床に散らばった金をすべて拾い集め、綾瀬茉莉の手に押し付けた。
「何をぼっとしてるんだ? さっさと霧生社長の接待に行け」
綾瀬茉莉は驚いて顔を上げたが、ちょうど霧生澪の冷淡な視線とぶつかった。
彼は何も言わず、そのまま二階へと上がっていった。
綾瀬茉莉は一瞬ためらったが、やはり彼の後を追った。
霧生澪がこの店に来ることは数えるほどしかないが、そのたびに彼女が接待を担当していた。
おそらく、店内の他の人間に比べて、彼女の方がまだ「マシ」だと思われているのだろう。
二階の個室は音楽の音がかなり小さかった。
霧生澪は気だるげな様子で主賓席に座っていた。
綾瀬茉莉はゆっくりと歩み寄り、彼のために酒を注いだ。
胃の激痛はますます酷くなり、彼女は死に物狂いで耐えていた。
その時、頭上から男の尋ねる声が降ってきた。
「具合が悪いのか?」
