第5章
原野恭介視点
鎌倉の邸宅に戻ってから、俺の心はぐちゃぐちゃだった。
一方で、今日カフェで見た杏梨の鈴木怜央に対する冷たい態度は、俺を安堵させた――彼女は、所謂あの夫に何の感情も抱いていない。だがその反面、あの鈴木怜央という男が佐江杏梨を見る目つきから、事がそう単純ではないことも分かっていた。
『くそっ、あの野郎、まだ彼女を愛してやがる』
リビングのソファに腰を下ろし、今日の光景を頭の中で再生する。鈴木怜央の紳士的な振る舞い、そして杏梨を見つめるその眼差し――俺がよく知る深い愛情。なにせ四年前から、俺も同じ目をしていたのだから。
実を言えば、杏梨への想いは、少なくとも自分の...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章


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