第6章

原野恭介視点

朝の陽光が霧を抜け、誰もいないプライベートサーキットに降り注ぐ。アスファルトが黄金の光を反射していた。俺はスタートラインに立ち、ヘルメットを固く握りしめ、モーターオイルの匂いが混じる空気を吸い込んだ。

今日が、決着の日だ。

鈴木怜央はもう来ていた。彼の赤いフェラーリがコースの向こう端に停められ、ボンネットからはまだ湯気が上がっている。彼がプロのような落ち着きでタイヤをチェックしているのを、俺は見ていた。ちくしょう、少しも緊張しているようには見えない。

『関係ない。俺にはあいつにないものがある――杏梨への長年の秘めた想いと、この二週間の彼女の優しさだ』

昨夜彼...

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