第168話クズより酷い

胸の奥で、何やら野性的なものが猛り狂った。意図せず犬歯が伸び始める。

「落ち着け」ピーターが切迫した声で囁いた。

俺は無理やり牙を引っ込めたが、怒りは収まらない。他の男が彼女に触れ、抱き寄せ、笑顔を引き出すのを見せつけられるのは、まさに拷問だった。

その時、照明が落ちた。

突然の闇に、群衆からは困惑したざわめきと、不安げな笑い声が漏れる。

「何が起きたんだ?」ピーターが訊く。

「周りを見てみろ」

ボールルーム中のカップルたちが暗闇に乗じて身を寄せ合い、すでに口づけを交わしている者たちもいた。

俺の視線はすぐにセーブルとクリスに戻った。ダンスフロアの中央で、二人は寄り添うように立...

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