第65話ひざまずけ

だが、俺の意識は運転席の男へと向かった。

この距離からでも、その男が背が高く、肩幅が広いことは見て取れた。

金に物を言わせて彼女の気を引こうとするクソ野郎だ。高級車を見せつければ彼女がなびくとでも思っているんだろう。

胸の奥で怒りの炎が燃え上がった。よくもまあ、弱っているセーブルにつけ込むような真似ができるものだ。彼女は傷つき、混乱している。下心のある男にとっては格好の餌食だ。

俺は車内で話す二人を見つめた。セーブルは男の言葉に笑い声を上げている。その表情は生き生きとして、幸せそうだった。

その時、男の手が伸び、彼女の顔に触れた。

視界が真っ赤に染まった。

セーブルは身を引くどこ...

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