第160章 彼女を見逃して

中林真由は、憎悪を込めて今野敦史を睨みつけた。いっそこのまま彼にしがみつき、道連れに窓から飛び降りてやりたい衝動に駆られる。

 この男は、どこまでも最低だ。

 十年間、秘書として、そして愛人として彼に尽くしてきた。確かに恩はある。だが、だからといって私は彼に魂まで売ったわけではない。

 私はモノではない。彼の言いなりになるしかない人形だとでも思っているのか。

 窮鼠猫を噛むという言葉がある。私にだって感情はあるし、限界だってあるのだ。

 できることなら、今すぐこの手で彼を絞め殺してやりたい。

 だが、できない。私には母がいる。従弟もいる。そんなことをすれば、家族はどうなってしまう...

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