第170章 取引

今野夫人はティーカップをソーサーに戻すと、その表情をいっそう冷ややかにした。

「……中林真由、本当に戻ってくるつもりはないの? 今野グループは貴女に合っていると思うけれど」

 中林真由は静かに首を横に振る。

「今野社長さえ邪魔をなさらないのであれば、仕事は見つかります。私は試してみたいのです」

 彼女の態度は明確だった。ここを去るという意思、そして今野敦史にこれ以上の妨害をさせたくないという拒絶。

 だが同時に、彼女は理解してもいた。今の今野社長は自らのことで手一杯であり、彼女の事情になど構っていられないだろうと。

 話はここまでだ。これ以上の弁解は必要ない。

 彼女と今野敦史...

ログインして続きを読む