第9章 小さなバカ

中林真由は濡れたままの服でその場を去った。引き裂かれた胸元からは、下着が微かに覗いている。

階下で待っていた上村が、彼女の姿を認めると急いで駆け寄り、上着を羽織らせた。

「中林秘書、お送りします。今野社長が……」

彼は一瞬言葉を止め、「阿部さんに気づかれないように、急ぎましょう」と言った。

「ええ」

惨めな姿ではあったが、中林真由は笑みを絶やさなかった。

用済みの道具は彼の目に触れさせない方がいい。それくらいは分かっている。

そして翌日の帰り道、一行の中には中林真由の姿があった。

他の同僚たちは皆察し、中林真由が本社に戻るのは当然のことだと受け入れていた。

阿部静香だけが不...

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