第2章

三年前、パルス雑誌編集部。私の声が、フロア全体に轟いた。

「ドタキャンですって、どういうこと!?」

怒りで胸が張り裂けそうだった。床から天井までの窓際に立つ私の背後で、編集部の全員が息を殺し、物音ひとつ立てられずにいるのが肌で感じられた。

いいわ。それでこそ、私が望んだ効果よ。

二十九歳にして、私はニューヨークのファッションシーンの全てを掌握していた。背後の壁には、私が手掛けた傑作であるクラシックな雑誌の表紙がずらりと並んでいる。私こそがパルスの女王、神谷綾羽。私の意志に逆らう者など、誰もいなかった。

今日までは。

「ボス、すぐに代わりを探さないと」

遠藤大知が、候補者のポートフォリオの束を抱え、おずおずと近づいてきた。

私は鋭く振り返る。ヒールが大理石の床に氷のようなリズムを刻んだ。電話口でどもりながら弁解するモデル事務所の言葉が、私の怒りにさらに油を注ぐ。

「役立たずばかりね!まともな男性モデル一人見つけられないなんて!」

私はポートフォリオをひったくり、数ページめくると、デスクに叩きつけた。この所謂「候補者」たちは、私のプロとしてのセンスに対する侮辱だ。

「この売れ残りをモデルと呼ぶの?明日の撮影はこの四半期の売上全てを左右するのよ。それなのに、こんなゴミみたいな連中を連れてくるなんて」

オフィス全体の空気が凍りついた。この感覚が、私は好きだった。

「あと一時間だけあげる。それでもまともな候補者が見つからなかったら、あなたたち全員クビよ!」

私がさらに続けようとした、その時。オフィスのドアが、静かに押し開けられた。

時間が、止まった。

開きかけた口からほとばしるはずだった怒号が、不意に喉の奥でつかえる。

ごく普通の配達員の制服を着た青年が、保温バッグを手に中へ入ってきた。彼の背後から差し込む陽光が、そのシルエットを金色の縁で飾り立てている。

なんてこと……。

この顔……。数えきれないほどの男性モデルを見てきた。数えきれないほどのファッションショーに足を運んだ。けれど、初見でこれほどまでに心を揺さぶられた顔は、一度もなかった。完璧な頬骨の骨格、海のように深い瞳、そして、あの生まれ持った気品。どんなに変哲もない配達員の制服を着ていても、放つオーラはどんなカメラをも征服するだろう。

これこそ、私が探し求めていた顔!

「お嬢様、お邪魔して申し訳ありません」

彼の声は低く、深みを帯びていて、謝罪の響きを含んでいた。

「お昼のお届けものです。サインをお願いします」

心臓が跳ねるのを感じた。ありえない――どんな男にも感情を動かされたことなんてない、絶対に。なのに今、見知らぬ男の声に、私は狼狽えている。

「わ、私……」

なんてこと、言葉が出ない!この私、ニューヨークのファッション界隈で最も恐れられる女帝が、たかが配達員の男の子一人に口を封じられるなんて。

この感覚は、衝撃的であると同時に、胸を躍らせるものだった。

「待って!」

私は不意に我に返った。自分でもわかるほど、声が震えている。

「まだ行かないで。ジャケットを脱ぎなさい」

確かめなければ。もし彼が、本当に私の思った通りの完璧な存在なら……。

「あの、何でしょうか?」

彼は戸惑った顔で、丁寧に問い返してきた。

「ジャケットを脱いで。あなたの体格を見たいの」

私のプロとしての本能が完全に起動する。私は彼の周りを回りながら、専門家の目で彼を吟味し始めた。

見れば見るほど、満足感が増していく。見れば見るほど、興奮が高まっていく。

広い肩幅に、引き締まった腰――完璧な黄金比。すらりとした指、優雅な首筋。これはまさに、神が自ら彫り上げた最高傑作だ! カメラの前に立った彼がどれほど素晴らしいか、パルスにどれだけの注目をもたらすか、私には想像できた。

いいえ――私に、どれだけの栄光をもたらしてくれるか。

「坊や、大金を稼ぎたくない?」

私は声の興奮を抑えようとしたが、それでも震えが聞こえた。

「私の専属モデルになりなさい。住む場所も食事も用意するわ。一か月の給料は、あなたが配達で一年稼ぐより多いわよ」

なんて寛大な申し出!理性的な人間なら断るはずがない。

だが、彼の表情は一瞬で変わった。

「お嬢様、俺はそういう人間じゃありません。失礼ですよ」

彼は一歩下がり、警戒するように私を見た。

なんですって?

自分の耳が信じられなかった。この私、パルスの編集長であり、ニューヨークのファッション界全体のトレンドセッターである私が、配達員の男の子に拒絶されるなんて?

この拒絶された感覚が……かえって私をさらに興奮させた。

「面白い……」

私の唇に、危険な笑みが浮かぶ。私を拒める者などいない、誰も。この坊やが抵抗すればするほど、私は彼を手に入れたくなった。

彼が慌てて配達バッグをまとめて去ろうとするのを、私は見つめていた。心は、もう決まっている。

「遠藤大知!」

私はアシスタントに叫んだ。

「彼の全てを調べなさい。名前、住所、家族構成――何もかもよ!」

どんな手を使っても、この完璧な坊やを手に入れてみせる。

三日後、深夜。私は古びたアパートの階段の踊り場に立っていた。私のコートは、この薄暗く窮屈な環境とは不釣り合いだったが、気にならなかった。調査結果は、同情を誘うと同時に、私を興奮させた――長谷川冬月、二十一歳。父親はギャンブラーで、莫大な借金をこさえて失踪し、彼一人がその負債を背負っている。

完璧な獲物。

人は絶望しているほど、救いやすい。そして、私が彼の救世主になるのだ。この感覚はあまりにも素晴らしい――彼が感謝の涙に濡れながら私の前にひざまずく姿が目に浮かぶようだ。

階段の踊り場から、激しい口論が聞こえてくる。私は角に隠れ、三人のチンピラまがいの借金取りが、私の長谷川冬月に詰め寄っているのを見ていた。

私の長谷川冬月?いつから私は、彼のことをそんな風に考えるようになったのだろう?

「おい、金はどうした?今日払うって約束の二十万ドルだ」

「あと数日だけ、お願いします……」

長谷川冬月の声には絶望が滲んでいた。その無力な響きが、私の内に説明のつかない怒りを掻き立てる。

よくも。よくもこの私が見初めた人間に、こんな真似ができるものだ。

「延長だと?もう三ヶ月も引き延ばしてるんだぞ!金がなけりゃ、命で払ってもらう!」

男たちが長谷川冬月に手をかけようとするのを見て、私の内で怒りが一気に燃え上がった。私はヒールを鳴らして影から歩み出る。声は氷のように冷たかった。

「いくら?私が彼に代わって払うわ」

長谷川冬月を含め、その場にいた全員が凍りついた。彼は衝撃を受けたように私を見つめ、その深い瞳は信じられないという色に染まっていた。

「二十万ドルだ」

借金取りのリーダーが、じっと私を睨みつける。

私はためらうことなく小切手帳を取り出し、素早くペンを走らせると、破り取った小切手を彼らに投げつけた。

「失せなさい」

借金取りたちがばつが悪そうに逃げ去っていくのを見送りながら、私の心は陶酔するような征服感で満たされた。彼は私を必要とし、私に依存し、そしてもう、決して私から離れられない。

「あなた……なぜ俺を助けてくれるんですか?」

長谷川冬月が、衝撃を受けた様子で私を見た。

私は彼を見下ろしながら、その瞳に浮かぶ驚きと感謝を味わった――これこそ、私が演出した通りの脚本。

「だって、あなたはもう私のものだから」

私の声は羽のように柔らかく、それでいて否定しようのない支配力を帯びていた。

「明日の朝九時、この住所に来なさい」

私は彼に名刺を渡し、背を向けてその場を去った。

翌日、私は高級アパートの一室で、シルクのローブをまとい、髪を無造作に肩に流した姿で、私の「戦利品」を待っていた。ドアベルが鳴った時、私の気分は格別だった。ドアを開けた瞬間、彼の顔に浮かぶ驚愕の色が見えた。

「新しい家へようこそ」

私は満足げに微笑んだ。

私のアパートに圧倒されている彼を見て、誇らしい気持ちで満たされる。床から天井までの窓からは町が一望でき、インテリアの一つ一つが値のつけられない逸品だ。これこそが富裕層の世界、私が彼に差し出す人生。

「ここがあなたの部屋よ」

私はドアを開け、彼の瞳に浮かぶ驚きを楽しんだ。

「こっちがあなたのクローゼット。サイズに合わせて仕立てた服が入っているわ。明日から、あなたは私の専属モデルになるの」

私は彼を連れて、この念入りに用意された「籠」の中を案内し、彼の複雑な表情を観察した。困惑、衝撃、そして微かな恐怖?完璧な支配感が、私を包み込んでいくのを感じた。

「さあ、これにサインして」

私は入念に準備した契約書を彼に手渡した。

「専属モデル契約書。条件は簡単よ。あなたは私の全ての撮影に協力する。食事と住居、そしてあなたの借金は私が全て面倒を見るわ」

彼が契約書に目を通すのを、その顔にますます複雑な表情が浮かんでいくのを見つめる。条項の一つ一つが、彼が完全に私の支配下に入るよう、私が緻密に設計したものだ。

「あなたは、私が買ったものなの」

私はソファに腰かけ、足を組み、彼を愛でるように眺めた。

「私の言うことを聞いていれば、何不自由ない生活を保証してあげる。公平でしょう?」

この支配する感覚が、私は大好きだった。特に、これほど完璧な男を支配するのは。彼は値段のつけられない芸術品であり、まもなく私のものになるのだ。

長谷川冬月の持つペンの先が震えていた。彼の内なる葛藤が見て取れたが、彼に選択肢がないこともわかっていた。

サラッ――

彼が、その名を記した。

その瞬間、私の満足感は頂点に達した。彼は私のもの。完全に、徹頭徹尾、私のもの。

数週間後、パルスの撮影スタジオ。私はライトの下に立つ長谷川冬月を見つめ、心は誇らしさで満ちていた。

「完璧だ!その表情!」

フォトグラファーが興奮気味に叫び、シャッターを素早く切っていく。

「この子は天性のものを持ってる――カメラ映えが信じられないほどだ!」

当然よ。私の目に狂いはなかった。数週間のプロのトレーニングは彼をさらに自信に満ちさせ、その生まれ持った資質がカメラの下で見事に開花していた。他人が彼を褒めるのを聞くたびに、私は得意な気持ちになった。

これは私が発掘し、私が育て上げた――彼は私の最高傑作。

でも……なぜ、心に奇妙な感覚が宿るのだろう?

撮影後、私たちはアパートで夕食をとった。長谷川冬月は私の向かいに静かに座り、丁寧にステーキを切り分けている。光が彼の横顔に落ち、信じられないほど優しく見えた。

私はいつの間にか、彼の食事の仕方や、時折見せる穏やかな微笑み、そしてその瞳に宿る自信に満ちた光に、気づくようになっていた……。

いつから、こんなことに?

「ありがとうございます」

長谷川冬月が不意に顔を上げ、その深い瞳が私の目をまっすぐに捉えた。

「この数週間……本当に多くのことを学びました。モデルの技術だけじゃなく、他にもたくさんのことを」

心臓が、どきりと音を立てた。

彼の眼差しには、私を狼狽えさせる何かがあった。それは見慣れた感謝や依存ではなく、もっと純粋で、誠実な何か。今まで見たことのない温かさが、私を戸惑わせた。

「私はただ、完璧なモデルが欲しかっただけ……」

私は自分がそう呟くのを聞いた。

だが心の奥深くで、声が囁く。本当に、それだけ?

長谷川冬月が静かに「おやすみなさい」と言ってダイニングルームを去っていくのを見送り、私はがらんとした空間に一人座り、不意に一抹のパニックを感じた。

私は芸術品を収集していたのか、それとも……一人の人間に恋をしていたのか?

いいえ、神谷綾羽が誰かに恋をするなんてありえない。ましてや、私が囲っている坊やにだなんて。絶対に。

でも、なぜ心臓がこんなにも制御不能に高鳴るの?なぜ、もう明日の朝、彼に会うのが待ち遠しくなっているの?

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