第5章

森本悠斗の車が、私の住む古びたアパートの前で停まった。私は呆然と車のドアを押し開ける。

「今日の教訓を忘れるな、神谷綾羽」

背後から投げかけられた森本悠斗の声は、凄みを帯びていた。

「二度と馬鹿な考えは起こすな」

振り返らず、私はよろめきながら建物の廊下へと入った。三階に着く頃には、足はもう自分の体重を支えきれなかった。

ドアを押し開け、私は擦り切れた床板の上へと完全に崩れ落ちた。クロスレストランでの長谷川冬月の問いかけが蘇り、心臓をナイフで抉られるようだった。

「『飽きた』って、本心だったのか?」

その言葉が頭の中で無限に反響し、繰り返されるたびに傷口をさらに深くえぐっていく。三年を経て、彼はついにあの夜の私の言葉を疑い始めた。なのに、私にはもう真実を告げる勇気はなかった。

それから三日間、私は抜け殻のようにいくつものアルバイトをこなした。配達、皿洗い、オフィスビルの清掃――思考はずっと、たった一つの問いに囚われたまま、すべての作業を機械的にこなしていた。

長谷川冬月の疑念は、まるで鍵のように、私が心の奥底に固く封じ込めていた扉をこじ開けた。

三日目の夜、私はついに我慢できずノートパソコンを開いた。鏡に映る憔悴しきった自分の姿を見つめ、三年間ずっと避けてきた真実を、初めて認めた。

「彼の言う通りだわ」

鏡の中の自分に、激しく震える声で囁いた。

「飽きたなんて、嘘だった」

まったくの、完全な嘘!

三年前のあの夜の記憶が、津波のように押し寄せてきた。長谷川冬月の衝撃を受けた表情、その瞳に浮かんだ痛みと信じられないという思いを、今もはっきりと覚えている。あの時は、考えうる限り最も酷いことを言えば、彼は完全に諦めてくれると思っていたのだ。

「彼を守るために、一番残酷な言葉を使った」

ついに涙が溢れ出し、私は膝を抱えた。

「そして、結局みんなを傷つけた」

私自身も含めて。

キーボードの上で一瞬ためらった指が、やがて震えながらキーワードを打ち込んでいく。三年間、初めて自ら進んで、あの痛ましい記憶を検索した。

『神谷家 倒産』、『パルス雑誌 廃刊』、『ファッション業界 激震』……

どの見出しも、心に針を突き刺すようだった。

不意に、ある不鮮明なニュース記事が目に留まり、私は凍りついた。

【神谷家の倒産、ファッション界の複数の若手モデルに影響か。業界関係者によれば、ある若手男性モデルはキャリアを絶たれるほどの打撃を受ける可能性も……】

呼吸が速くなる。

「やっぱり」

私は拳を握りしめた。

「彼らは本気で長谷川冬月を潰すつもりだったんだ」

森本悠斗の脅しは、ただの虚勢ではなかった。もし私が長谷川冬月と別れていなければ、彼は本当に奈落の底に引きずり込まれていたはずだ。私の選択は正しかった。少なくとも……あの時は。

「でも、今の彼は成功している」

画面に映る長谷川冬月の最新の広告写真を見つめながら、胸をかき乱される。

「もし今、真実を話したら、どうなるんだろう?」

スマートフォンを手に取り、画面の上で指をためらわせる。

【冬月くん、あの時のことなんだけど……】削除。

【もしかしたら、あなたは知っておくべきなのかもしれない……】削除。

書いては消し、そのたびに心が削られるようだった。理解されたいと願いながら、その結果を恐れていた。これは単なる勇気の問題じゃない――二つの世界が衝突するということなのだ。

翌日の午後、喫茶店でテーブルを拭いていると、ブランドスーツに身を包んだ女性が近づいてきた。

「神谷さん!やっと見つけたわ」

元『パルス雑誌』アシスタントの、渡辺加音さん。

「何か月もあなたを探していたの」

私の手が止まった。

「渡辺さん? どうして……?」

彼女は席に着くと、落ち着きなく周囲を見回した。

「あなたの家族の倒産について、知っておくべきことがあるの。三年前、私があなたに伝えるべきだったことが」

心臓が激しく脈打った。

「どういうことですか?」

「森本悠斗よ」

彼女は憎々しげにその名前を吐き捨てた。

「あの男、ずっとあなたの家族を恨んでいたのよ」

「え?」

「あなたのお父様が事業で彼に大損をさせて、あなたは彼のアプローチを断った」

渡辺さんの表情が真剣になる。

「あなたの家が倒産して、その直後に長谷川冬月さんと突然別れた……あまりにも偶然が重なりすぎているわ」

私の両手が震え始めた。

「あの保証契約書……」

渡辺さんはさらに声を潜めた。

「法的な罠だらけだったって聞いたわ。お父様を亡くされた直後にサインしたんでしょう?」

息がほとんどできなかった。もし渡辺さんの言うことが本当なら、それはつまり……。

「私は、嵌められたんだ」

その夜、私は長谷川冬月の写真を取り出した。初めて泣かずに、彼の瞳を深く見つめた。

「会いたい」

そっと写真をなぞる。

「一日も欠かさず、毎日」

三年間の抑圧が、ついに捌け口を見つけた。私は認めた――彼を手放したことなんて一度もなかった。彼の写真を見るたびに、心が張り裂けそうだった。あの頃は、机の引き出しに隠した小さな箱を含め、すべてを覚悟していたのに。

「あなたに真実を知ってほしい」

写真の上に涙が落ちる。

「あの夜の私の選択を、理解してほしい」

立ち上がって鏡の前に行き、人生に打ちのめされた自分の姿を見つめる。心の中に、弱々しいけれど確固とした思いが芽生えた。

「もしかしたら……彼には真実を知る権利があるんじゃない?」

スマートフォンを手に取る。今度は指の震えが少しだけ収まっていた。

「冬月くん、あなたに伝えたいことがあるの……」

しかし、すぐには送信しなかった。ただそのメッセージを見つめ、心の中で激しく葛藤する。告白したい衝動と、理性的な恐怖がせめぎ合っていた。

ちょうどその時、ドアがノックされた。

ドアを開けると、森本悠斗が立っていた。高価そうな白い薔薇の花束を抱え、顔には偽りの笑みを浮かべている。

「綾羽、様子を見に来たよ」

彼は部屋に押し入ってきて、何かを探すように室内を見回した。

「ここで何してるの?」

私は不安げに尋ねた。

森本悠斗の足が突然止まった。彼の視線は、ベッドの横の壁――そこを埋め尽くす長谷川冬月の写真に釘付けになっていた。雑誌の表紙、新聞の切り抜き、広告の写真。まるで執着の祭壇のようだ。

張り詰めた糸のような沈黙が続く。

「ほう」

彼の声は、死を予感させる囁きに変わった。

「これは一体、どういうことかな?」

私の血が凍りついた。壁のことを忘れていた――三年間、密かに集め続けた長谷川冬月のあらゆる写真、彼の成功のあらゆる痕跡を。

「これはなかなか……感動的じゃないか」

森本悠斗は壁に近づき、写真の一枚を指でなぞった。

「三年も経って、お前の大事な長谷川冬月様のために記念碑を建てていたとはな」

「あなたが思っているようなものじゃ――」

「違うとでも?」

彼はくるりと向き直り、その目は怒りで燃え上がっていた。

「俺を騙していたな、神谷綾羽。ずっと前に進んだふりをしながら、哀れな恋煩いの馬鹿みたいに、奴を崇拝していたとは」

彼の視線は次に、まだ長谷川冬月のニュースページが表示されたままの私のノートパソコンの画面を捉えた。その表情は、完全に殺意に満ちていた。

「最近は元カレのことが随分と気になるようだな」

彼は花束を置き、声が危険な色を帯びた。

「神谷綾羽、何を考えている?」

背筋に悪寒が走った。彼は私の心境の変化に気づいたのだ。

「何も……」

「嘘をつくな」

森本悠斗が近づいてくる。その一歩一歩が死神の足音のようだ。

「分からないとでも思うか? お前の目が変わった。また良からぬことを考えているな」

私の手にはまだスマートフォンが握られており、送信されていないメッセージは時を刻む爆弾のようだった。

「自分の立場を思い出せ」

森本悠斗の声は刃のように鋭い。

「父親の借金、母親の手術費用、そしてお前の可愛い元カレの輝かしい未来。すべては俺の支配下にあるんだ」

私はソファに崩れ落ち、燃え上がったばかりの小さな勇気の炎は瞬時に消え去った。

「わかっています」私は俯いたまま、メッセージを削除した。「良からぬことは考えません」

森本悠斗は満足げに微笑んだ。

「よろしい。来週末の婚約パーティーの打ち合わせには必ず出席するように。俺たちの結婚式はもうこれ以上延ばせないからな」

彼が去った後、私はスマートフォンの空白の会話画面を見つめていた。温もりも希望も、すべてが完全に消え去っていた。

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