拷問装置
つまり、こいつがあの噂のノックスか。
話には聞いていた。フィンが彼について語る口ぶりは、まるで時折焚き火のそばに現れては食料を盗み、また森へと消えていく野良オオカミの話をするようだった。ワイルドで、予測不能。そしてたぶん、どこか少し常軌を逸している。
今こうして見ると、確かに彼はフィンに似ている。同じ鋭い骨格に、腹が立つほど完璧な形をした口元。だが、フィンが「太陽と愛嬌」だとするなら、ノックスは「洗練されたギャングのためのライフスタイル誌」から抜け出してきたような男だ。
「あなたが誘拐犯じゃないって、どうしてわかるの?」私は顎をしゃくり上げて尋ねた。「名乗った通りの人物だって証拠を見せてもらわないと」
「身分証とか?」
「そうね、それがあれば」
「持ってない」
「ほらね? やっぱり誘拐犯っぽい」
「フィンに電話して確認すればいいだろ」
私は腕を組んだ。「出ないのよ。私がどうして捨て犬みたいに一時間もここに突っ立ってたと思ってるの?」私は車に視線を走らせた。「それに、『マフィアのボス』って書いてあるような威圧的なマッスルカーで現れるなんて、自分から怪しまれに行ってるようなものじゃない」
「乗るのか、乗らないのか? こっちも忙しいんだよ、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃん? 今、私のこと馬鹿にした?」
ノックスは長く重いため息をついた。私のせいで、ただでさえ少ない彼の忍耐力が試されているらしい。「乗れよ、スローン」
私は無表情で彼を見つめ返した。それから、ため息をつく。私には危機管理能力というものが皆無なのだ。フィンの元カノの結婚式に乗り込む手伝いを引き受けた時点ですでに手遅れだし、彼の人殺しができそうな兄の車に乗り込むことなんて、今月私が下した決断の中ではまだマシな方だ。
「トランクを開けて」
ノックスが中からトランクを開けると、私はバッグを放り込んだ。こうやって女は実録犯罪ポッドキャストのネタになっていくのよね、とブツブツ呟きながら。
助手席に滑り込んでも、ノックスは動こうとしなかった。
「どうしたの? 出さないの?」私は横目で彼を見て尋ねた。
「シートベルト」
ああ。
安全意識の高い誘拐犯候補か。それは……意外だ。
カチリと音を立ててベルトを締めると、彼はエンジンを唸らせ、空港のピックアップゾーンからハイウェイへと車を出した。背中がシートに押し付けられるほどの滑らかな加速だった。
開けた道路に出た瞬間、彼はスピードを上げた。シェルビー・マスタングが、解き放たれた獣のように足元で咆哮を上げる。
「ちょっと、飛ばしすぎ!」私は反射的にシートの端を掴んだ。
「降りたいか?」
「いいえ。でも速すぎるわ。街が見えないじゃない」
「アッシュビルか? 見るものなんて何もないぞ」
「あなたにとってはそうでしょうね。どうせ一生ここに住んでて、世界中を旅してるんでしょうから。私はニューヨークからほとんど出ないの。だから出かけた時は……この目に焼き付けたいのよ」
口に出すと詩的すぎて、なんだか恥ずかしくなる。でも本当のことだ。私は瞬間や、景色や、感覚を収集している。アパートの部屋が空っぽに感じて、思考がうるさすぎる孤独な夜のために、それらをしまっておくのだ。
「俺がアッシュビルに住んでると思ってるのか?」彼が尋ねた。
私は彼の方を向いた。「違うの?」
「違うな。ニューヨークだ」
ちょっと待って。
「あなた、ずっとニューヨークにいたの?」
「驚いた顔だな」
「だって……フィンは一度もそんなこと言ってなかった。一度もよ。同じ街に住んでて、一度も会わないなんてことある?」
「俺とフィンは……複雑なんだよ」
彼の言い方に、私はそれ以上追及するのをやめた。
しばらくの間、張り詰めた沈黙の中で車を走らせていると、ノックスは何の予告もなく突然幹線道路から逸れた。急ハンドルに、私はドアの取っ手を強く握りしめる。
彼が車を停めたのは、薄暗い建物の前だった。ネオンレッドの文字がこう光っている。
『センシュアル・デライツ(官能の悦び)』
「えっと……ここ、ご実家?」百も承知で私は聞いた。
ノックスはニヤリと笑った。「『センシュアル・デライツ』だぞ? ここが家に見えるか?」
そこはまさに、誰もが想像する通りのアダルトショップだった。中の見えない窓。怪しげな路地裏。
「セックスショップ?」
「ビンゴ」
私の脳内がショートした。「どうしてセックスショップなんかに?」
「結婚祝いを買わなきゃならなくてな」
「誰への?」
「俺のツレと、その嫁」
私は言葉に詰まり、頭の中で点と点が繋がっていく事実に生唾を飲み込んだ。「待って……あなたの友達って、ハンターのこと? あの新郎の?」
「ああ」
「デリラの婚約者?」
ノックスは意地悪く笑った。「その通り」
なんてこと。
フィンの兄が、デリラの婚約者の友人?
どうしてフィンはこんな大事なことを一度も言わなかったの? 自分の親友について、私は何も知らなかったみたいだ。
これじゃあ、爆発寸前の時限爆弾じゃない。
「ここで待ってるか? それとも中に入るか?」ノックスが聞いた。
私は建物を一瞥し、それから彼の顔を見返した。
もうどうにでもなれ。
私はシートベルトを外し、車を降りた。眼鏡の位置をぎこちなく直し、トップスの見えない皺を撫でて伸ばす。
「デリラの名義で拷問器具を買いに行きましょう」冗談ではなく、私は本気で言った。
ノックスは喉を鳴らして笑った。「了解です、お嬢様。だが言っておくが、拷問されるのが好きな女もいるんだぜ」
それはどうかしら。デリラのあの偽善者で浮気女の尻に、地球上から消し飛ばすくらいの電流をお見舞いできるような何かを見つけてやるわ。そうすれば、彼女はもう二度とフィンを傷つけられなくなるはずだから。
