第173章:妊娠しています。

セラフィナ・ヘイルは、想像を絶するような最悪の状況をいくつも経験してきた。

暗殺者と真っ向から渡り合い、裏組織を壊滅させ、銃撃戦から汗ひとつかかずに生還したこともある。

だが、何ひとつ――断じて何ひとつとして――アレクサンドラ・ムーアが〝あの表情〟を彼女に向けた瞬間に備えることなどできなかった。

口を開くより先に、すべてを物語ってしまう、あの表情に。

セラフィナは薄暗い診察室に座っていた。心拍は安定していたが、膝の上の手は珍しく強張っている。

アレクサンドラはゆっくりと息を吸い、カルテをパタンと閉じた。

そして、ついに――

「妊娠しているわ、セラ」

セラフィナは瞬きをした。

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