第20章

古崎正弘は水原明美の去っていく背中を見つめながら、彼女を引き止める言葉をかけようとしたが、口から言葉が出てこなかった。

そのとき、入口の石柱の陰に隠れていた田中裕樹が姿を現した。

「わざわざ俺を連れて法廷まで来たのは、水原明美に会うためだったんですか?」

「違う」

彼は否定したものの、田中裕樹には古崎が水原明美に会いたかったことがわかっていた。

田中裕樹はため息をついた。彼には理解できなかった。古崎正弘は上場企業の社長なのに、どんな弁護士でも雇えるはずなのに、なぜ水原明美にこだわるのか。

目の肥えた人なら一目で分かることだった。古崎正弘がこれほど熱心に水原明美を探しているのは「法...

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