第118章

夜十時、黒川颯の車がQ市の別荘に到着した。

その頃、伊井瀬奈はすでに入浴を済ませ、ベッドにもぐり込んで眠りにつこうとしていた。外の物音に、胸の中に嫌な予感がこみ上げてくる。彼女は身を起こし、素足で床に降り立つと、案の定、黒川颯が車から降りてくるところだった。街灯に照らされた影が長く伸び、その姿をより一層すらりと見せている。

伊井瀬奈は、彼がこんな夜更けに追いかけてくるとは夢にも思わなかった。自分は彼がデザイン部に配置した、取るに足らないアシスタントに過ぎない。こんなことで、わざわざ来るなんて?

とはいえ、そもそもは自分が約束を破ったのだ。電話で新出部長に戻ると約束したのに、結局...

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