第12章

伊井瀬奈は思わず首をすくめた。耳元のくすぐったい感覚が、瞬く間に血流に乗って四肢の隅々まで広がっていく。

「黒川社長、私たちは離婚したんです。同じ部屋で寝るなんてできませんし、ましてや同じ布団でなんて。ですから、主寝室にお戻りください。ゲストルームのベッドは硬すぎて、あなたの高貴な体には合いませんから」

彼女は震える声で、二人が協議離婚した事実を改めて突きつけた。彼が本気で何かを仕出かすのではないかと恐れてのことだ。

「俺と同じ布団で寝るのが好きだったろ?」

黒川颯の口調には、わずかに嘲りが含まれていた。伊井瀬奈の顔がカッと熱くなる。まるで自分の顔を平手打ちされる音が聞こえたかの...

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