第120章

伊井瀬奈はびくりと身を震わせた。彼女が黒川家に嫁いで三年になるが、お爺様がここまで激怒するのを見たことがない。前回、最も激しく怒ったのは、彼と羽鳥汐里が結託して、お爺様を病院送りにした時だった。

伊井瀬奈は慌ててお爺様の隣に座り、その背をさすった。

「お爺様、どうか怒らないで。ゆっくり話しましょう。お身体に障ります」

黒川のお爺様は怒りで唇を震わせる。

「瀬奈、今日はお爺様がお前の味方だ。あのろくでなしが他にどんなろくでもないことをしたか、一度に全部話してしまえ。まさかこの黒川家が、今やあいつの思い通りになっているなどと、信じられるものか」

黒川颯は依然として顔をこわばらせ、一言も...

ログインして続きを読む