第139章

羽鳥汐里は吐き終えると、顔にやや疲労の色を浮かべていたが、心は熱く燃えていた。これで彼女も、一枚の切り札を手に入れたのだ。

遠くで、黒川颯が伊井瀬奈を連れて来客たちの間を挨拶して回っていた。意外なことに、今回の黒川グループの祝賀パーティーには、謎の大物が姿を見せていた。

伊井真はS市で有名な不動産王だ。彼が所有する不動産よりも有名なのは、その悪辣なビジネス手腕だった。みどり不動産は彼の手に渡った時こそ中堅企業だったが、彼の経営のもと、わずか五年で急速に台頭した。

今やS市に彼と張り合える企業はなく、南部には至る所にみどり不動産が建ち並び、その独占状態を物語っている。

富豪たちの間では...

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