第140章

羽鳥汐里は目を細め、伊井瀬奈に問いかけた。

「お姉さん、私と颯兄さん、少し二人きりでお話があるの。席を外していただけるかしら?」

伊井瀬奈は何も言わず、顔を上げて黒川颯を見つめた。羽鳥汐里が二人きりで話したいと言っている、自分が黒川夫人であることが周知の事実であるこの状況で。まずは彼の態度を見極めたいと思った。

その場にいた女性たちの視線が、一瞬にして黒川颯へと集中する。

次の瞬間、黒川颯は伊井瀬奈に視線を向けた。その眼差しはごく平坦なものだったが、伊井瀬奈の心には大波が押し寄せていた。彼が口を開く前に、伊井瀬奈はもう答えを悟っていた。

いつでも、どこでも、羽鳥汐里を選ぶ。それが彼...

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