第39章

黒川颯は電話を切ると、腕の中の女を一瞥し、結局は腰に回された手を振り払った。

「貸しが一つできたな」

彼はベッドから降り、手際よく服を着る。

その一言が、伊井瀬奈を再び厳しい現実へと引き戻した。彼女は何を期待していたのだろう。自分の引き留める言葉で、彼が羽鳥汐里を断ってくれるかもしれないなどと、愚かにも望んでしまった。

事実が、彼女を改めて目覚めさせる。

羽鳥汐里が彼を必要とすれば、彼はいつでも彼女のもとへ駆けつける。たとえ今しがたのように、一線を越える寸前だったとしても、ためらうことなく身を引くのだ。

伊井瀬奈は自分が憎かった。一体何度彼に傷つけられれば、この想いを諦められるの...

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