第70章

伊井瀬奈の心臓が激しく高鳴り、その鼓動が自分でも聞こえるほどだった。

「ふざけないで、お爺様が外にいるのよ」

彼女はお爺様を盾にして彼を牽制した。

黒川颯はフンと鼻を鳴らした。「お爺様はとっくに帰ったさ。信じられないか?扉の外にいないどころか、関係者以外は上の階に上がらせないようにしてるはずだぜ」

「結局、手伝ってくれるの、くれないの。くれないなら、お母様に頼みに行くから」

「随分と他人行儀じゃなくなったじゃないか。その体中の痕を、彼女に見せる気か?」

黒川颯の一言が、彼女のすべての逃げ道を塞いだ。

彼はファスナーの持ち手を数回上下に動かすと、噛んでいた生地が外れ、ジッパーはス...

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