第71章

伊井瀬奈は呆然としていた。彼女は羽鳥汐里のこれまでの言動を思い返す。コーヒーも、お酒も、ハイヒールも、何のためらいもなく身につけていた……。

ということは、自分に送ってきた超音波検査報告書は偽物? 彼女は妊娠なんてしていなかったのだ!

すべては、羽鳥汐里が自分を彼から引き離すために仕組んだ陰謀だった。

これが果たして朗報と言えるのかはわからないが、その瞬間、心が軽くなったのは確かだった。彼女は無意識に手を下腹部に当てる。彼に隠し子がいないのなら、自分の赤ちゃんも、自分のような悲惨な幼少期を送ることはないだろう。腹違いの妹のせいで、家庭を失うようなことは。

「瀬奈、離婚はやめにしないか...

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