第88章

時枝は「え?」と声を上げ、潤んだ瞳で彼女を見つめた。

伊井瀬奈は彼女の前髪を優しく撫でる。「あの子たちのことは怖くないけど、あなたに迷惑がかかるのが怖いの。私に近づきすぎないで。分かってるの、馬鹿ね」

会社の同僚たちは皆、羽鳥汐里に目をつけられるのを恐れて、伊井瀬奈とあまり関わろうとしない。それなのに、時枝ときたら、試用期間を無事に終えられるか不安なくせに、毎日彼女と一緒にいるのだ。

時枝は「あ、うん」とだけ言うと、唇を尖らせた。

「でも、瀬奈さんとは一番話が合うと思うんです。職場の腹黒い女って嫌い」

「職場じゃ避けられないことよ。気を付けてね」

二人は少し話してから、...

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