第98章

「瀬奈、電話で父さんに約束したこと、ちゃんと果たしてくれよ。黒川社長と離婚するって言ったじゃないか。父さんからのお願いだ、汐里に生きる道をくれ」

羽鳥業成は床にひざまずき、涙を拭った。

伊井瀬奈はしばらくしてようやく我に返り、一歩後ずさった。羽鳥業成のこの行動には、自分が誰かすら分からなくなるほど驚かされた。こんな大それた礼を受けたら、寿命が縮んでしまう。

「羽鳥さん、やめてください。あなたが申し訳なく思うべき相手は、母と祖母です。郊外の墓地へ行って、二人の墓前にひざまずくべきでしょう」

羽鳥業成は顔を上げ、その目には憎しみが宿っていた。

「親子だというのに、父さんとさえ呼ばないの...

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