第077章

会社にはそれぞれ規則があるもので、受付でこれ以上ごねても時間の無駄だと水原玲は悟り、直接石川秀樹に電話をかけた。

彼は意外とすぐに出て、「何の用だ?」と尋ねる。

低く沈んだ声は少し掠れていて、耳元をくすぐるように滑り込んできた。

彼女は思わず眉をひそめる。たった一晩で、この男はこんなにも弱ってしまったというのだろうか?

しかし、彼女は何も言わず、ただ今の状況を彼に伝えた。

石川秀樹は二秒ほど沈黙し、「そこで待ってろ」と言った。

電話が切れ、水原玲はその場で待つことにした。

行き交う人々が時折、好奇の視線を彼女に投げかける。彼女が石川秀樹の元妻であることは誰もが知っていた。社長の...

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