第153章

渡辺美代は目の端で彼の手にあるファイルをちらりと見て、彼が本気だということを悟った。

彼女も遠慮する気はなかった。今の二人の関係は遠慮できるような間柄ではない。

高橋隆一と三年間一緒にいても二人の間に感情らしいものはほとんどなかった。彼と感情の話をするより、お金の話をした方が自分の気持ちがすっきりする。

結婚して三年、彼からお金をもらえるのなら、それもいいことだ。しかも二人の子供もいるのだから。

一度この話を切り出して、彼も渡すつもりがあるなら、この株式譲渡書にサインするつもりだ。

「今、サインしましょうか」

渡辺美代は足を止め、視線はまだ別の場所に落としたまま、彼との目を合わせ...