第18章

月の鬼の声が、七一二号室内に響き渡る。

「残り、四十秒……」

私は、川崎美奈に目を向けた。彼女の表情はもはや緊張しておらず、むしろ、どこか吹っ切れたような穏やかなものだった。彼女はゆっくりと立ち上がると、私と柳沢明日香に向かって、深々と頭を下げた。その所作は、茶道の師範のように、荘厳で優雅だった。

「ありがとう、本当に……」

川崎美奈の声は、水面に広がる波紋のように柔らかく、まるで遠い場所から聞こえてくるかのようだった。

彼女は右手を自身の腹部に当て、左手で和服の内側から、きらりと光る一振りの短刀を抜き出した。

彼女が何をしようとしているのか。私ははっと気づいて止めよう...

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