第19章
どれだけこの階段を駆け上がっただろう。長時間の緊張と疾走で、太腿の筋肉がちぎれんばかりに悲鳴を上げていた。
百鬼夜行が始まってから今まで、自分がどれほどの恐怖と死の脅威を乗り越えてきたか、もう数える気にもなれない。
周りの壁は、まるで巨大な生き物が呼吸しているかのように、ぬめりと僅かに起伏している。ここが現実の世界などではなく、月の鬼が創り出した悪夢の底であることを、嫌でも思い知らされた。
「情けないな……」
私は、低く自嘲した。
「死を前にして、怖気づくなんて。昔は平気で、困難に立ち向かえなんて人に言ってた私が、今じゃ逃げ出したいだなんて思ってる」
柳沢明日香は、私の...
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