第4章

キィィィン——!

電動ドリルの甲高い音が鼓膜を突き刺し、ドアが少しずつ穿たれていく。パラパラと木屑が舞い散った。

私たち三人は恐怖に駆られ、部屋の最も奥まで後ずさる。川崎美奈が柳沢明日香の手を固く握りしめ、私はといえば、両手に包丁を握り、最悪の事態に備えた。

「ドアに穴を開けてる!」

川崎美奈の声が震える。

「早く、ベッドを動かしてドアを塞いで!」

だが、私たちが行動を起こそうとした瞬間、電動ドリルはすでにドアを貫通し、お椀ほどの大きさの穴がドアの中央にぽっかりと開いた。川崎美奈が息を呑んで叫ぶ。

「あの穴から無理やり入ってくる気よ!」

信じられない光景だった。高橋さんの腕が、ありえない角度でその小さな穴からぬるりと伸びてきたのだ。まるで、その腕から全ての骨が抜き取られてしまったかのように。

続いて彼の頭が、軟体動物のようにぐにゃりと歪み、無理やり穴から押し入ってくる。その半身が部屋に入り込んだ時、私はようやく彼の後頭部をはっきりと目に捉えた——

そこには、何もなかった。まるで、中身をくり抜かれた仮面のように、空洞が広がっているだけだ。

「あれは高橋さんじゃない!」

私は絶叫した。

「式神よ!」

高橋さん——いや、高橋さんになりすました『何か』——の体は、巨大なムカデのように蠢き始め、完全に私たちの部屋へと侵入しようと試みていた。

その四肢は信じがたい角度にねじ曲がり、関節からは吐き気を催すようなゴキゴキというおぞましい音が響く。

私は両手の包丁を握りしめ、深く息を吸い込むと、そのムカデのような人型へと突進した。

「失せろ、穢れたもの!」

叫びながら、私はその歪んだ体へと包丁を突き立てる。

刃が突き刺さった瞬間、管理人の姿をしたそれは、人間とは思えぬ絶叫を上げた。鼓膜を貫かんばかりの、甲高い金切り声だ。

だが、それは彼の動きを止めなかった。むしろ侵入の動きを加速させ、骨がないかのようにその体は小さな穴からじゅるじゅると流れ込んでくる。

「早く!」

川崎美奈が叫んだ。

「カウントダウン、あと三十秒!」

私はそばにあった椅子を掴み、蠢く怪物に叩きつけようとした。その時、廊下から再び電動ドリルの音が鳴り響いた。

怪物は突如、苦痛に満ちた咆哮を上げ、体を激しく痙攣させると、まるで何かに引っ張られるかのように穴から引きずり出されていった。

外で何かが重々しく倒れる音がし、続いて痙攣する音と呻き声が聞こえる。

私は慎重にドアの穴に近づき、そこから高橋さんの姿をしたものが床に倒れ、苦痛にのたうち回っているのを見た。その腹部には、血が滲む大きな穴が開いていた。

そして廊下のもう一方の端では、荒木千夏が手にした電動ドリルを下ろし、顔面蒼白のまま床にへたり込んでいる。

「中に入れて!」

千夏が、切羽詰まった声で叫んだ。

「早くドアを開けて! さっきのは、管理人が私のスマホを盗んで、私になりすましてメッセージを送ってたのよ!」

川崎美奈と柳沢明日香がドアのそばへと歩み寄り、私たち三人は穴越しに荒木千夏をじっと見つめた。

「どうして、あなたを信じられるの?」

川崎美奈が、あくまで冷静に問う。

「だって、あの化け物がすぐに回復しちゃうからよ!」

千夏の声が恐怖に震える。

「電動ドリルで、一時的に動けなくしただけなの。すぐにまた襲ってくるわ!」

その時、明日香が不意に私の腕を掴み、スマートフォンのカウントダウンを指差した——残り時間は、わずか四十五秒。

「カウントダウンが終わっちゃう!」

千夏が必死に続ける。

「もし中に入れてくれなかったら、私はあれに喰われる! 本当に見殺しにする気!?」

私は川崎美奈に視線を送るが、彼女の瞳は深い疑念に満ちている。一方、明日香は私の手を固く握りしめ、私の決断を待っているかのようだった。

床に転がる高橋さんの体がぴくぴくと痙攣し始め、指が不自然な方向に曲がっていく。まるで、いつでも起き上がりそうな気配だ。

「早く決めて!」

千夏の声は、ほとんど絶叫に近かった。

「あと三十秒しかないのよ!」

私は手の中の包丁を強く、強く握りしめた。心臓が、破裂しそうなほど激しく脈打っている。今、どんな選択をしようとも、それが私たちの生と死を分かつことになるだろう。

カウントダウンは無情に続く。二十九、二十八、二十七……。

私たちの運命は、この一瞬に委ねられていた。

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