第9章

薄暗い寮の廊下に立ち尽くしたまま、私は先ほど見た記憶の映像を、脳内で何度も再生していた。刃のように鋭い記憶の断片が、胸の奥を覆っていた靄を容赦なく切り裂いていく。

明日香がトイレで荒木千夏にいじめられているところを、私が庇って助けに入ったこと。図書館で、川崎美奈が根気よく私たちの勉強を見てくれたこと。満開の桜の下で、私が怒りに任せて美奈の眼鏡を叩き落としたこと。そして最後に、明日香が屋上に立ち、毅然と身を投げたこと……。

不完全なピースが繋ぎ合わされ、胸を締め付けるような物語の輪郭がおぼろげに浮かび上がる。私たちは、かつて親しい友人だった。明日香はいじめに遭い、私と美奈が彼女を守っ...

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