第84章

藤原羽里は悪人ではない。むしろ多くの人間より、彼女に対して優しく接してくれてさえいる。しかし、二人が幼少期から育った環境は異なり、多くの物事に対する見方や対処法もまた違っていた。

自分が溺れた際に藤原羽里が天空橋蘭の悪意ある告げ口を信じたことも、今回無理やり「謝罪」を受け入れさせられたことも、突き詰めれば、藤原羽里が心の底では元々彼女の人柄や素行に不信感を抱いていたからに他ならない。

藤原羽里が彼女を娶ったのは、純粋な愛情からというよりも、彼女が彼の初めての相手であり、新たな世界の扉を開いた存在だったという理由の方が大きいだろう。他人の前では、彼は冷酷で禁欲的、そして高嶺の花のような存在...

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