第90章

翌日、葉田知世は昨日の服を田下さんにクリーニングに出すよう頼み、いつも通り藤原羽里と共に家を出た。

満たされた男は機嫌が良く、服の由来を追及してくることもなく、彼女もほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、また」

エレベーターホールで、彼女は藤原羽里に別れを告げた。

「ん」

藤原羽里は彼女の頬に軽くキスをして、その場を離れた。

朝のラッシュ時のエレベーターはただでさえ人目が多いのだから、わざわざ別れのキスまでする必要はないと彼女は思った。

しかし、昨日わざわざ会社まで駆けつけて自分のために場を収めてくれたことを考えれば、彼のこうした振る舞いも、会社での彼女の立場を良くするためなのだ...

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